地獄先生5
先生、本当のことを言ってもいいですか。
先生、わたしは先生が大好きです。でももっと深い仲になれたら、とは全く思わないんです。ただ、先生が10年後も20年後も何となく印象に残っている生徒になりたいんです。でも、中学校の3年間って本当に短くて、わたしのたった3年間しかなかった中学生活の中ですら先生はわたしじゃないたくさんの中学生と生活しているんです。わたしは先生にとって、山ほど居る中学生の1人でしかないんです。
それが本当に悔しくてやるせなくて、先生は地獄の鬼みたいに残酷な人だって思ってしまうんです。でも、その地獄にすら終わりがあるのです。先生との生活はもう数ヶ月で終わってしまうから。
受験に成功して第一志望の高校に行けたらわたしのことを覚えていてくれますか。そんなことはないのは分かっています。先生の「特別」になれるはずはないからです。結婚して家庭を持って、奥さんとお子さんのことを照れながら、誇らしげに話す先生が大好きです。だからあと数ヶ月だけ、あと数ヶ月で中学生じゃなくなるわたしのことを見ていてくれませんか。その視線すらわたしの一方通行ですか。
分かっているのです。わたしと先生の間には何も起こらないってことくらい。
でもヤケになって、わたしはこう言うのです。毎年のクリスマスに、いや、毎日、毎秒、息をするのも惜しんで。
「先生の結婚指輪を見るのが好き」