FULLERVISHー蜜売家枇薬

創作落語の同人グループ・蜜売家一門より、蜜売家枇薬の雑記録です。

死姦打坐

私の目の前に、今起こっている事。この現象を私が受け止めるためには、私は私の過去を振り返らなければならない。私は私のために私の過去の出来事をもう一度見つめなおす必要があるのだ。

21歳のころであった。当時、私はとりとめのない人間であったが、人の悪意には人一倍敏感であった。その悪意に対する意趣返しなどをする度胸すらなく、ただひたすらに大きな主義を掲げる者、人種などの「わざわざ一個人への反撃をしないもの」への批判や差別を繰り返すことによって、私自身の加虐心や自尊心を満たしていた。そして私は自らへの反論が来ないことに対して、それは私の言うことが紛うことなき正論だからである、と結論付けていた。今思えば若さゆえの行為であったのだと思う。

彼女に出会ったのは丁度そのような頃だった。彼女は私の鬱屈した加虐心を満たすには最適の存在であった。彼女は横に沿わせれば箔になるほどの容姿ではあったが、教養はなく、鈍臭く、また私の言うことに対して反論ができるほどの機転も知性も備わってはいなかった。口を開けば夢物語のような話をするのみで、私が一つ指摘をすれば黙って言うことを聞くような女だった。

彼女が僕に惚れた理由はわからない。私自身は覚えていないが、もしかしたら私ではなく、私のその加虐心故の行為に魅了されただけなのかもしれない。——ただ、彼女はミルクティーをあまり好んで飲むことはなかったが、私の淹れたミルクティーは例外的に好んでいた。その一つの事実が、彼女は私のことを好んでいるということの絶対的な証拠として、私の中に存在していたのだ。

今日も、いつもの通り私と彼女は紅茶を嗜んでいた。そのことだけは覚えている。きっかけは彼女が沸かしたお湯の温度が少し低かったことかもしれない。その時にははっきりと覚えていた気がするが、思い出そうとすると記憶に靄がかかっているような感覚がする。はっきりとした光景として思い出せることは、白に青い模様が入った私のティーカップと、私の紅茶と、私が彼女に買ってやった白に青い模様が入ったティーカップと、私が淹れてやったミルクティーと、横の砂糖と、給湯器と、あと思い出せることは、あと白いテーブルクロスがかけられた丸テーブルと、あと紅茶と、あとは、赤い顔をして横たわっている彼女と、そう、白い四肢を投げ出すように倒れている彼女だった。彼女の眼は少し潤んでいる様で、生きているときそのままの様子だった。美しい容姿に限っては生前も死後も変わらないようで、だらしなく開いた口もまるで陶器の器のようであった。人と器が異なることくらいは私も知っている。ただ私は彼女を人でなくしてしまった責任を取り、人ではないそれに価値を与えてやらねばならないという使命があるのではないか。生前の彼女と同じだけの価値を与え、所有してやることによって、彼女の尊厳を復活させてやらねばならないのではないか。私はすくと立ち上がり、給湯器に残っていたお湯をティーポットに流し込み、そのまま彼女の口へと注いだ。筋肉が弛緩すると喉は絞めていなくても絞まるようだった。なみなみと紅茶が注がれた口腔に、私はいつものようにミルクを流し込み、カチャカチャと攪拌した。やはり口元は安定せず、まともにミルクティーを飲むことはかなわなかった。どうやらこれはティーカップとしての価値はなくなってしまったようだ。諦めて彼女の腹部を枕としてみたが反発力がなく、また持ち運びも面倒だ。とりあえず彼女を部屋の隅に寄せ、これの使い道について思案することにした。思い切って廃棄することも考えたが、さすがにそれは失礼に当たるだろう。なにより、私は余計なモノを買わない代わりにモノを捨てられないタイプなのだ。このモノが使えるうちは使っておきたい。私は彼女の靴をゴミ箱に入れてから、外に出かけた。足元が冷たくて仕方がなかったので、フルレングスを履いてくればよかったと思ったが、流石に彼女の目の前で着替えるのもきまりが悪いので、仕方ないと思うことにした。ささっとクッションと綿を買い、家に戻った。玄関を開けると、彼女は少し萎れているようだった。私は彼女の口から空気を入れようとしたが時間が経った人間の口腔というものは少し冷たく弾力がなくて湿ったシリコンを咥えているような感覚になりすぐにやめてしまった気を取り直してクッションを彼女の背中に当てたが背骨に弾力を遮られてうまくはいかなかったから私はとりあえず彼女の鼻と口に綿を詰めることで彼女の輪郭を元通りにしてまた彼女を何に使えないかを考えることにしたがいかんせん彼女は萎れていってしまうので時間がない。だから何とかして使わなきゃもったいないし早く使ってやらなきゃ 今までだったら思いついていた沢山の彼女の使用方法が見つからないし思い出せないことに腹が立ってくる 俺の所有物なのに手間がかかることこの上ないから彼女はやっぱり死んでからも 死んでからの方がさらに迷惑をかける存在だなだって 彼女に傷を負わせてももう勝手に治ってはくれないし、だっttってまたこれで俺が捕まりでもしたらお前のせいだからなクソ死んで逃げやがって。いつmみたいに謝れよ誤って謝って謝って謝tって身体を差し出せよクソが。お前の役に立つところなんてそれしかなかったんだからやっぱりお前は所有物としての才能はあるよ。相変わらずだってほらお前の膣内はむしろほら死んだ後の方がよっぽど名器じゃないかお前は最初からそうなってればよかったんだよこうすれば愚鈍なお前もりっパな俺の所有物になれたんだからさお前も幸せだろう???価値を持てたんだから。お前はもう存在してるだけでいいんだ。だいじに大事に所有されて幸せだろう?やはり人は道具として使ってもらえるタメにあるんあだよお前はなあ 聞いてんのかモノのくせに人の話聞けよお前 俺のなんだろ俺が殺して俺が使ってやってんだからありがたく使われてくれよ頼むからさ お前だって使ってくれて嬉しいでスくらい言ってくれたら俺だって捕まらねえんだよ 何で死ぬかな最初から死んでろよモノあんだったらあ人は使われるためにおるんだよ俺だって俺だって俺だって何に使われてるの……?

俺だってお前より価値があるんだからお前より優秀あんだけらお前より使えるんだから使ってくれたっていいじゃないかなんでなんだよおまえはいいよなあ俺に使ってもらえるんだからお前も俺を使ってくれよ。使ってくれよ使ってくれよ使ってくれよ使ってくれよ使っお前はもうモノか。存在してるだけでいいんだ。


……うらやましい。