FULLERVISHー蜜売家枇薬

創作落語の同人グループ・蜜売家一門より、蜜売家枇薬の雑記録です。

花燭ーn

甘すぎる代わりに爽やかではない強いマンネンロウが数式を美しいと嘆く天才が組み敷く圧搾機の中で苛烈な芳香を撒き散らしていました。精油を絞り出される肢体が数字を持たないために、その工程から愛を不純物のように取り除かれたのです。したがってこの現象は投影と防衛から為す代償行為と言えます。一方マンネンロウは蕩けました。ホウけているとも解釈されます。愛していた天才の天才でない所以を潰れる花弁から咀嚼し、嚥下することを望むからです。数式を持たない代わりにマンネンロウは教わった["L"ose-Wea3]を提唱することにより、非凡な家の傲慢な気質を吸収することを理解したからと言えます。彼女は["L"ose-Wea3]と言えるほどの性質は持っておらず、また彼女が会得した表現方法を用いるのであれば彼女を圧搾する[Luv3]こそ、強く過激な[V4ヰ^Z]であると納得します。ただ、マンネンロウが病的なまでに抱えてしまった["MA"ternal/"RE"versal/A.]・もしくは希求的["C"hitarra/rac-K]によって、この行為は等式となります。どのような暴力的行為が、もしくは性的行為が行われる場合においても、精油を提供することが人工化されたマンネンロウの意思と言えます。[期待/肯定-U]?

 

相似と合同の狭間の3

僕が二回目に死んだ話をしよう。

それは目の前に僕が居た日のことだ。

つまりお前が僕の前に現れた日のことだ。

どうして僕は僕が目の前に居るのか理解できなかった。僕はその日、ぬいぐるみだった。あの子が身体を持たずに生と死の隙間にすら居ない僕のために作ったぬいぐるみの中で僕は僕を見た。

死んだみたいに生気のない表情の割にお前は血の通った人間の顔をしていた。お前は生きていた。僕の身体で生きていた。

悪魔は言った。

「この身体は俺のものだ」

だからお前は悪魔なんだろうとすぐに合点がいった。だからといってぬいぐるみには何も出来ない。せいぜいお前のことを見ないように意識すら殺して過ごすしかない。

意識すら失ったら僕はもう僕ですらないのに。本当の僕の「死」が目の前にあるだけなのに。

それなのに、僕は僕の短絡的な妄想すらお前に否定された。

お前は悪魔じゃなかった。

悪魔は僕をどうしたかったのか。

それとも悪魔はお前をどうにかしたかったのか。

お前は僕の抜け殻そのものだった。

でもお前は僕の抜け殻に閉じ込められた僕でも悪魔でもない他人だった。

だから僕は、訊く、

 

「もしお前が、僕をそのまま使って作った型を使った悪魔の美術品だったとして、お前じゃない、お前と同じ姿形をしていたはずのお前が目の前でお前よりも無惨に地べたを這いずり回るしかない生活を営んでいることを知ったら、お前はどうする?」

 

相似と合同の狭間の2

こう考えていると必ず思い出すのが、お前が生まれた日だ。すなわちそれは僕が死んだ最初の日だ。

僕の身体はその日、有刺鉄線と重そうな枷で雁字搦めにされて僕の前に差し出された。

そしてあの悪魔は僕に囁いた。

「それを解かないとこの身体は俺のものだ」

そう言われるまで気付かなかった。僕は僕の身体の中に居なかった。馬鹿な話だが、難しく聞こえる話だ。自分の身体は案外意識の外にある。僕は僕の殻から引き剥がされ、遊離した意識だけで僕の身体を取り戻そうとした。

時間を数える声がする。僕の身体が僕のものじゃなくなる時間が近付いていることを告げる声がする。

でも僕は意識しか持っていない。僕の身体は、目の前で雁字搦めになって転がっている。

僕の身体は死んだように動かない。どれだけ触ろうとしても、どれだけその拘束から解放してやろうとしても、身体を持たない僕にそんなことは出来ない。僕が死んだように動かないのは、僕の意識がここに在るからだ。僕が動けないのだから、僕の身体だって動けない。

だから当然、悪魔のカウントダウンは終わった。

僕の意識は消えない。僕は僕の身体が大切に拘束を解かれる様子を見ていた。

死んだように動かない、いや意識がないからもう僕は死んだのだ、そんな僕の身体のことを、悪魔が慈しむように奪い去っていった。

僕の意識だけが残った。

僕は生きたまま死んだ。

僕のことを、空っぽなものだけが受け入れた。

捨てられたぬいぐるみ、道端の土嚢、忘れられた道路標識、それが僕の身体に代わる代わるなっていった。

僕は僕であるために、僕が僕であることを忘れてはいけない。

脳裏によぎる「死んだ僕」は死んだ僕なのだから、僕はあの身体を忘れてはいけない。

僕が僕であることを、僕しか知らない。

奪われた身体がどこでどうされていようと、僕が僕であることは、僕がそれを喪えば消える事実だ。

例えばそこにあるボロ雑巾として、例えばそこにある誰かが忘れたままの落し物として、例えば何の役目も持たずに立ち尽くす案山子として、そうやって僕が居る、僕が「居る」ということを僕が忘れればもう僕は居ない。

 

『失恋したなどということ』

作られちまった生傷の治療を要求している

流れちまった血液の掃除を要求している

消されちまった""[Luv3]""の供養を要求している

もう取り返せないってことと

[code-1]は救われねぇってことなら分かってる

だからこそ{私/僕/俺}は呼んでいる

穢れちまった[Can-D]の慰めを要求している

汚されちまった淡い[CHerr3-B]のクーリングオフを要求している

["諦観"的相槌-U]の挨拶がまだなのでさせてくれ

さっさと[code-27]はツラ貸せって

そう言ってるんだって理解も出来ないのか腐れ[code-3]

振るだけ振ってそれまでですっていい身分の腐れ[code-3]

["諦観"的相槌-U]って言われせてくれたっていいじゃないですかこの["L"ose-Wea3]

さようならって言わせてくださいこの心をどこかへ預けさせてください

グッバイビーマイ[Luv3]ベイベー

相似と合同の狭間の1

「もし君が、君をそのまま使って作った型を使って君をそのまま作られてしまったとして、君じゃない君と同じ姿形をした君が目の前で君よりも君が求めた生活を営んでいたら君はどうする?」

 

僕は僕と同じ姿をしたお前を理解できない。お前は僕そのもので、僕もお前そのものなのに、僕とお前は分裂した別のものとして存在するしかない。

僕が過ごすかもしれなかった時間も、僕が築くはずだった交友関係も、僕が知るはずだった知識も、何もかも僕ではないお前が持っているのに、お前は僕の止まった時間を何も知らない。

僕の時間が止まっていた間がお前の時間だから、僕の時間が動き出したらお前の時間は終わるはずだった。僕が先に僕としてここに居たのに、どうして僕と同じ姿形のお前をまるでお前の方が先に居たかのように僕は見ないといけないのか。

僕の抜け殻だったお前の抜け殻が僕なのか。

僕はお前の抜け殻にならないといけないのか。

あの子は僕をどうして不気味そうな目で見るのか。それはあの子が好きなお前と僕の姿が文字通りの生き写しなのに僕がお前とまるで違う別人だからだ。

僕の身体がもしも僕だけのものなのだとしたら、お前は僕の身体を使っている僕じゃない存在だから僕は正当にお前を詰って殴ってそのまま殺せたらそれだけで気は鎮まると思うけれど、お前は僕そのものの姿形をした僕ではないお前だから僕はお前が生きることを尊重したいと思うことを止められない。

分かっている。僕はお前が羨ましい。殺したいほど羨ましい。

僕の時計が叩き壊された時にただ偶然置かれていただけの僕と合同だった人形がお前という自我を持って僕の日常に介入するのがどうしても受け止めきれない。お前が僕なら僕はお前で、お前と僕はじゃあ誰だ。

 

寝ちゃったんじゃない?

世界がぐるってまるまるってなって体はピクリとも動かない。多分これから寝るところ。眠いか眠くないかで言ったら眠いような眠くないようなよく分からない感じ、だけどこれから向かう先は覚醒ではなく睡眠。さっきなにかやり残した気がするけどそれやるのはまた明日。多分最近起きたことは明日のティーヴィーを観ればいいし、それでもダメならまあなんとかなるでしょっていう感じ。煙草が燃えるような迷惑な沈黙ももうないしだから本当の本当に独りぼっち。これはこれで困らない。明日の朝イチで隣の家のシュナイデンのお爺さんがうちに来る予定だけどそれもこれもまた明日。明日の午後にはもう少しさめてるはずだからその時にいっぺんにお願いだ、さてこれからどうする。内臓はもう眠たいって言って聞かないからいよいよおしまいだ、自分で考えるしかないって言ったらそうですって答えるしかないし、じゃあ「誰か助けて」って言えるかって言ったら最初からそんな状況あったわけがないからそんなことに堕してる暇はない。どうしようどうしよう。寝ちゃったんじゃない?寝ちゃったんじゃない?そんなこと言ってる場合じゃない。

そうなんだよ、そうなんだよ!そんなこと言ってる場合じゃない!寝ちゃってる場合じゃない!寝ちゃっても何も変わらないし何か変わっちゃっても困るっていうのは多分シュナイデンのお爺さんは言うから困る。困っちゃうなあ困っちゃうなあどうしようどうしよう。ティーヴィーを点けてもその灯りは綿あめみたいに脳みその空間を充満していくだけで脳みその構造内まで蓄積せず、どうにも為になる気配がない。会話になりそうにもないな。それは脳漿に浸って赤黒い濡れたぺちゃぺちゃした"なにか"になって充満するだけになるのだ、そして認知症を加速する、困ってしまう。だからティーヴィーはよくないのかもしれない。けれども今それは待つという試練のために否定すべき現実とは相反すべき行動の否定には必要な行為でありおそらく理には適っている。頭がおかしい。べちゃべちゃしたクッキー生地よりも理に適っている。世界はまるっとしてぐるっとしておしつけられた回転木馬の周辺情報みたいなものと化しており、自分に課された義務は数分のようで数時間のように思える厳しいものとなっている。食事を所望するがおそらく臓器は受け付けないと思う。