醜形恐怖症
私の好きな男はすごくかっこいいとは言えないけど持つべきものは及第点を全て持っているようなバランス型の男で、私は鏡を見ると徹夜したウツボみたいなモノが映る女だった
どうにも見合わない
どうにも似合わない
しかし私はこの男を好きになってしまってから随分長い時間が経っていたし、その長い時間は男を麻痺させることに成功していて男はやや私に好意を抱いているようだった
ずっと好きだった
ずっと愛していた
及第点の男
落伍者の女なんかに目をくれるなんて神が目隠しで運命を決めているとしか思えない
私は本当に必死で
受験勉強なんかより
アルバイトなんかより
友達関係なんかより
もうなんか全ての活動という活動よりも優先して、私の見てくれを誤魔化す努力に全てを捧げていた
テープだの糊だの色んなものを駆使して重たい瞼を無理矢理二重に仕立て上げて、カラーコンタクトで黒目を不自然なまでに大きくして、ギリギリ薄化粧と説得すれば通らなくもない厚化粧を習得して、何もかも私をましに、誤魔化すためだけに、時間を割いていた
から時間をロスしていたらしい
好きな男は私の正反対みたいな女を好きになっていた
誤魔化しと厚塗りの権化みたいな私へのうっすらとした好意に似たものなんて、本物の美しさの前では全く叶うはずがなかった、最初から分かってはいることだった
あー私は化粧をしない女に負けた
ファンデーションを塗りたくった砂漠みたいな私の肌を前にして、好きな男の好きな女の肌は何も塗っていたいのに瑞々しくて眩しくて私の涙を肩代わりしそうだ
目をつぶっても何も不自然じゃない二重まぶたは愛嬌があって嫌味がなくてこんなに恨めしいのにこちらに後ろめたさを投げ返してくるのだ
好きな男は好きな女を連れて私に会ったことに少し罪悪感のようなものを抱いているらしいことがかなり私の心を砕いてしまった
もう私は誰のために頑張る必要もないと思った時
誰のために私がいるのかも分からなくなってしまった
何も飾らなくても必要とされる人間ではないのだ
私は