FULLERVISHー蜜売家枇薬

創作落語の同人グループ・蜜売家一門より、蜜売家枇薬の雑記録です。

おなかすかない

目の前に出されたのは、

きっとすこし前まで生きものだったもの。

それをわたしは、

道具を使って、

切り分けて、

突き刺して、

口に入れるの。

顎を動かして噛み潰して、

喉を動かして食道に送り込むの。

そこには喜びなんて何もないの。

ただわたしは生きるためにこの行為を行うの。

ただ生きるために、

切って突き刺して咀嚼して嚥下するの。


目の前に出されたのは、

鼻腔をくすぐるデミグラスソースのいい香り。

ほどよいやわらかさのハンバーグを、

右から見たり左から見たり。

ああ、なんて美味しそうなんだろう!

わたしはナイフとフォークを使ってそれを切り分けて、

ひとくち頬張りました。

肉汁が溢れて口の中を満たして、

わたしを幸せで満たしました。


わたしが元気なとき、

幸せなその行為は、

わたしが元気でないとき、

生きるためだけに、

味のないものを口に入れて噛み潰して嚥下する行為と化す。

料理された生き物の味を愉しみ、

その行為に感謝することの、

できない身体に、

わたしが料理されてしまったから。

おいしいものをおいしいと思う、

そんな自分を愛すべき。