見えていたものが見えなくなった。そんなことに気づいた昼下がりだった。雲は高く空は澄み、風は爽やかに通り抜ける、そんな秋の日であった。
僕に見えていたものに名前はなかった。
それはおろしたてのシャツの糊の匂いとお日様の匂いがまじった春の朝のようだった。
それはプールの授業が終わったあとの、塩素の匂いと冷房で冷えた水の匂いが充満した夏の教室のようだった。
僕に見えていたものは少しずつ僕によそよそしくなった。
僕はここにいるはずだった。
しかし僕はここにいなかった。
そこにいるのは僕の後輩であった。
そこはもう僕がいる必要がなかった。
"僕"の秋が始まった。