FULLERVISHー蜜売家枇薬

創作落語の同人グループ・蜜売家一門より、蜜売家枇薬の雑記録です。

代議会書類_配布書類2

閉店した花屋にまだ毎日通っています。あなたが好きであろう花ばかり置いていた花屋なのでここでじゃないとあなたが好きであろう花を買えないと思っているのです。

随分前に更地になった雑貨屋にまだよく通っています。あなたがくれたこの万年筆だけがあなたの姿を感じられる唯一のものになっていくのが僕はつらくて苦しくてたまりません。

まだあなたはストルガツキイ兄弟による著書が好きなのでしょうか。僕はあなたの影響を受けて今まで読んだことのない海外文学というものに興味を持ちました。けれど僕はあなたほど外国語の素養を持っておらず、未だ原語で読もうと思っていたツルゲーネフプーシキンを読めずに辞書と一緒に机の隅にまとめて置いてあるまましばらく経ってしまいました。

あなたは、どれほど遠いところへ行ってしまったのでしょうか。全国的に酷い寒さに見舞われている今、同じ寒さに苦しんでいるのでしょうか。

同じ空の下にあなたはいるのでしょうか。

歩行者天国を歩く時の、あの気も遠くなるような人間の大群の中に、あなたがいる可能性はあるのでしょうか。どこかで気付かないうちにすれ違っていたなんてことは有り得ないのでしょうか。

まだ僕はあなたが大好きです。

あなたが僕に与えた影響は、今の僕を今の僕に至らしめた最たるものです。毎日使っているこの万年筆は、使えば使うほどにあなたへの愛を深く強く呼び戻し、僕はあなたのことを愛していると何度だって思い直させるのです。

大好きです。愛しています。

もう二度と存在しないでください。

あなたが目の前にいて、その頬に手が届く時、あなたに何を思ってしまうのかが不安なのです。あなたの体温が、僕にどれほどの幸福をもたらすのか、考えるだけで反吐が出ます。

あなたは僕に何をしたと言うのでしょうか。存在することだけが愛おしくてしょうがないだなんて、どれだけ怠慢で狡賢いことをするのでしょうか。

あなたはただ僕の前にいることだけで役目を果たしていたと言うのに、僕は何が出来たと言うのでしょうか。僕の存在はあなたにとってかけがえのないものではなかったのでしょうか。僕は存在すること以外に何をすればあなたは満足したのでしょうか。

僕が贈った花の中で、あなたが喜んだように見えたのはこの閉店した花屋の店先でひときわ小さく、それでいて強く目を惹かれる美しさのあったマリーゴールドだけでした。そのあとどれだけ僕が花言葉を調べては様々な本数、そして色の薔薇の花束を贈ったところで、あなたの表情は苦笑のような微笑にしかならなくなってしまいました。ところで、僕の贈ったあの薔薇たちは結局どうしていたのでしょうか。かなりの本数にのぼると思うのですが、家が薔薇の花束で埋もれてしまったなどがあったならお詫びします。実家暮らしのあなたのことを配慮しないプレゼントでした。

それに対して、万年筆の贈り物を選んだあなたの感性にはやはり脱帽します。そう短い期間で使えなくなるものではありません。あなたが僕に万年筆を贈ったこと、それだけが、あなたが僕にあなたの存在を忘れないでいてほしいと願っていたと実感出来る事実なのです。

「あなたは迷惑です。怖いです。嫌いです」

僕があなたと最後に会ったあの日、あなたの言ったこの言葉にずっと傷付いていました。けれど、寝ても醒めてもあなたのことを恨んでは愛している事実を確認する地獄のような日々を送っていくうちに、あなたのこの言葉はこれから僕とあなたがそれぞれの将来のために勉強したり、或いは社会的な奉仕活動なんかに時間を取られ二人きりの時間がなくなっていくことを見越して、敢えて二人の会えない時間を寂しく思わないために僕を突き放したという意図のものだったとようやく理解出来たのです。

そんな自分勝手に僕の愛を受け取ったり突き放したりしないでください。

あなたに会えないこの時間で、僕は僕の気持ちが変わっていないかがとにかく不安なのです。あなたがいざ目の前にいるという時が訪れて、あなたに応えられる気がしません。

まだ存在しないでください。あなたがあんな言い方をするから僕は少しあなたに不満をぶつけたくなっているのです。マリーゴールドを受け取った時のあの笑顔を思い出しておいてください。そしてあの時のまま僕に会ってください。

今更、自分の言葉に後悔して、酷い言い方で突き放したことを出会い頭に謝られても僕は許す気はありません。

今度はあなたが僕の存在そのものを愛す番なのです。わがままは言わせません。