■
目の前に出されたのは、
きっとすこし前まで生きものだったもの。
それをわたしは、
道具を使って、
切り分けて、
突き刺して、
口に入れるの。
顎を動かして噛み潰して、
喉を動かして食道に送り込むの。
そこには喜びなんて何もないの。
ただわたしは生きるためにこの行為を行うの。
ただ生きるために、
切って突き刺して咀嚼して嚥下するの。
目の前に出されたのは、
鼻腔をくすぐるデミグラスソースのいい香り。
ほどよいやわらかさのハンバーグを、
右から見たり左から見たり。
ああ、なんて美味しそうなんだろう!
わたしはナイフとフォークを使ってそれを切り分けて、
ひとくち頬張りました。
肉汁が溢れて口の中を満たして、
わたしを幸せで満たしました。
わたしが元気なとき、
幸せなその行為は、
わたしが元気でないとき、
生きるためだけに、
味のないものを口に入れて噛み潰して嚥下する行為と化す。
料理された生き物の味を愉しみ、
その行為に感謝することの、
できない身体に、
わたしが料理されてしまったから。
おいしいものをおいしいと思う、
そんな自分を愛すべき。