FULLERVISHー蜜売家枇薬

創作落語の同人グループ・蜜売家一門より、蜜売家枇薬の雑記録です。

文化祭のあまりもの

お守りが揺れたんです。

確か、交通安全。

僕が指に力を込めたのと本当に同時でした。

彼女の猫っ毛がぶわっと一瞬にして広がって、肩にかけていたピンク色のポシェットにぶら下がっていた青色のお守りが、揺れたんです。

彼女は僕がアレでバチンとやった瞬間にびっくりしてこちらを見たんです。だから軽い髪の毛がぶわっと広がって見えたんです。

はい、僕は悪いことをしました。

分かってます。当たり前です。

小学生の女の子を輪ゴム鉄砲で撃つなんて……。

でも、死なないからいいと思ったんです。

輪ゴム鉄砲で人が死ぬなんて思ってなかったんです。

ただちょっと"イテッ"って、普通そうなるじゃないですか。

だって僕がその輪ゴム鉄砲を手に入れたのは文化祭のの準備の時ですけど、同じクラスの大原に撃たれた時だって、ブレザーの袖のところがちょっと強めの静電気でバチって感電したみたいな刺激があったくらいで、僕は至って普通でした。

あの時、僕が輪ゴム鉄砲を撃ったのが、アパートの非常階段の3階の踊り場だったのが悪いんです。

あの子、あそこで猫を可愛がってて……。

あそこ、野良猫の溜まり場になっていたんです。結構色んな柄の猫がいて、あの子が通っているのは知っていました。

だから僕、踊り場が見下ろせるように階段を昇って、あの子を待っていました。

あの子が踊り場にちゃんと立っている時に撃てばまだよかったんです。でもあの時の僕はどうも、得体の知れない邪悪な「好奇心」みたいなものに支配されていて、あの子の足音が近付いてくるだけで居ても立ってもいられなくなっていました。だから、あの子が階段を昇りきる前に……、階段を昇っている途中で、僕は輪ゴム鉄砲の引き金を引いたんです。

上から。

そしたらあの子、びっくりして真上を見て、そしたらバランスを崩しちゃって、頭から落ちていきました。

お守りが揺れて、髪の毛がふわふわしていました。

あんなに軽そうなのに、落ちた瞬間ものすごく鈍く重い音がして、僕は事の重大さが分かりました。

だから逃げました。

別に殺したかったわけじゃありません。

ただ、なんとなく、です。

なんとなく、輪ゴム鉄砲で、遊びたかっただけです。