FULLERVISHー蜜売家枇薬

創作落語の同人グループ・蜜売家一門より、蜜売家枇薬の雑記録です。

かわいそうなお子さん

ーおめでとうございます、おめでとうございます!あなたは「おおよそ常人には想定できない程残酷な死に方」をできました!おめでとうございます、おめでとうございます!!

気付いたらそこに居た。そこは生ぬるい空気が充満した居心地の悪い匣の中だった。

「えっと」

僕は辺りを見渡した。匣というか、殺風景な部屋だった。ドアもある。

取り敢えずドアを開けてみようと立ち上がった時、何かを踏みつけてしまった。

思わず何を踏んだのか確認してみると、そこには僕が居た。

大きく腫れ上がり、鼻血とか涙とか洟水とかそういうのでぐしゃぐしゃになった顔があり、通常曲がってはいけない方向にあらゆるまっすぐな骨がひん曲がっている。腹部はなんだかこうするのが当たり前という感じの空気を漂わせながら臓物を空気に晒していて、よく見ると脚は足首から先がない。

何故『これ』を僕だと思ったのか、多分それは『これ』が僕だからだ。恐らく他人からはこんなもの潰された豚か何かの死骸にしか見えないと思う。

ーおめでとうございます、おめでとうございます、おめでとうございます、おめでとうございます!!

さっきも聞こえたような気がする、喚き声みたいな僕を讃える声が頭の中に響いた。

「何が?」

僕が呟くと、僕と僕の死骸しかない殺風景な匣に喚き声みたいな声が散乱した。

ーおめでとうございます、おめでとうございます!!あなたは「常識的に考えてここまで残酷な死に方はしたくない」という程の凄惨な死を迎えました!これはあなたが「常識に囚われて生きる者」には絶対に経験しえない惨い経験をしたということ。人類の「経験」を収集している我々にとって、あなたのような「特異な経験」を経て死んだ方は重要な研究サンプルなのです。どうか、どのような経緯で、何故こんな姿にさせられ、その間あなたはどのようなお気持ちで最期を迎えようとしていたのか、教えて頂けませんか?

どうしてこうなったのか。どうしてだっけ。僕は自分の記憶に思いを巡らせた。

「確か、最初は知らない人に『手を洗う場所はないか』と聞かれたんだったよな。そして、近くの公園に公衆便所があってそこの手洗いで洗えばいいと答えた。そうしたら、ー」

ーーやはり、このような経験をした人類、ましてや子供ともなると思い返すだけで精神に支障を来たすのだな。

ーだから私は「死んだことは我々にとっては良いことなのだ」と何度も伝えて落ち着かせようとしているのですが。

ーー混乱を助長しているだけのように思える。それに、すぐに思い出させるのは得策ではないのではないか?状況を把握し、記憶を整理してから話させれば良いものを。

ーいえ、人類の「子供」は非常に未熟です。恐らく、記憶には鮮度があり、すぐに聞き出さなくては『防衛本能』により記憶のコーティングが始まります。素早く聞き出さないと……

ーーだが、このような子供にアプローチして『経験』を収集できたことは一度もないじゃないか。皆同様に、自分の『経験』のおぞましさに気を狂わせ、そのまま通常の会話が不能になってしまう。

ー一体、『経験』の中でどのような『気持ち』を味わっているんでしょうね。

ーーサンプルが存在しないから分からないな、気が狂うほどの何を感じているのだろう。